ヘリコプターの危険な空力シリーズ第5弾は「マストバンピンング」です。
名前からイメージできる通りマストが吹っ飛ぶ現象です。
- マストバンピングとは何なのか
- マストバンピングはなぜ起きるのか
- マストバンピングになりやすい状況
- マストバンピングの回復方法
- マストバンピングにならないために
を解説していきます。
この記事を読んでマストバンピングの知識をつけてマストを吹っ飛ばさないようにしましょう。
マストバンピンングとは?
マストバンピング:Mast Bumping
半関節型(セミリジット)ローターシステムの機体において、Low G状態になったときに機体がローターの動きに追従せずにハブがマストにぶつかってしまう現象。
大前提としてマストバンピングは2枚ブレードの半関節型(セミリジット)ローターシステムの機体で発生します。
3枚ブレード以上の機体では通常起こらず、似た現象としてはマストバンピングほどではない「droop stop pounding:ドループストップポウンディング」が起こります。
マストバンピングはなぜ起きるのか?
マストバンピング発生のメカニズムに入る前にローターシステムの違いについて理解する必要があります。
半関節型と全関節型の違いとなぜ半関節型でマストバンピングが起きるのかをみていきましょう。
半関節型ローターシステム(セミリジット)で起きる
半関節型ローターシステムは2枚ブレードのヘリコプターに使われています。
ロビンソンやベルなどアメリカのメーカーは2枚ブレードが多いようなイメージです。
通常、半関節型ローターシステムはフェザリングヒンジとティータリングヒンジと呼ばれるフラッピングヒンジのような役割のヒンジがあります。ドラッグヒンジはありません。
「ティータリング:Teetering」とはシーソーやぐらつくという意味です。
3枚ブレード以上の全関節型ローターシステムではブレードが独立しており、それぞれにフラッピングヒンジがあります。
2枚ブレードの半間接型ではブレード同士を連結させて、ティータリングヒンジにより片方がフラップアップすればもう片方はフラップダウンするようにしています。
一般的なフラッピングヒンジはブレードが個々にフラッピングするためのヒンジですが、半間接型に使われる「ティータリングヒンジ」はシーソーの支点のようなもので2枚のブレードの傾き(フラッピング)を受け持っています。
出典:Helicopter Flying Handbook
機体の追従性
出典:Helicopter Flying Handbook
出典:Helicopter Flying Handbook
全関節型と半関節型のローターシステムでは機体の追従性が違います。
全関節型はローターの推力に加えて、ヒンジを介したブレードの遠心力がハブに伝わりローター面を傾けることで機体が追従します。
これに対して半関節型はローター面の推力の傾きのみで機体を追従させています。
全関節型はサイクリック操作に対して追従性が良いですが、それに比べて半関節型の追従性は悪くなっています。
この追従性の悪さが半関節型ローターシステムでマストバンピング起きる一つの原因です。
Low G状態が危険
マストバンピングの発生には「G:荷重倍数」が大きく関わっています。
ヘリコプターのコントロールはローターに機体荷重がかかっていないとできません。ローター面の傾きに対して機体が追従しないので。
全関節型ローターシステムではヒンジモーメントがあり、追従性がいいので多少のLow Gでも機体の追従は可能です。
しかしティータリングヒンジを有するシーソータイプのローターシステムでは、推力の傾きによって機体を追従させているのでローターに機体荷重がかかっていないLow G状態では追従性が著しく悪くなります。
Low G状態ではローターの動きと機体の動きが分離されローター面が過度に傾くことになります。
メインローターが反時計回りの機体で考えてみましょう。
ヘリコプターがLow G状態になるとまず機体は右にロールします。これはテールローターの推力によるものです。
この時右ロールを戻そうとしてサイクリックを左に当てても荷重がかかっていないので機体は追従してきません。
またロールが戻らずさらに大きなサイクリックの操作をしてしまうとフラッピングが大きくなりローターはさらに傾きます。
その結果ハブとマストがぶつかるマストバンピングが発生します。
下の図はアメリカ陸軍のマストバンピングを説明したものです。
一度だけでなく、ローターの回転によってマストに何度もぶつかることによってマストを破断させてしまいます。
マストバンピングになりやすい状況
普段全関節型ローターシステムのヘリコプターに乗っているとあまり意識しないかもしれませんが、シーソータイプの機体に乗っていると思ってマストバンピングが起きやすい状況を考えてみましょう。
鳥や障害物を避けるときの急操作
やはり気をつけるべきは急操作かつ大きな操作です。
通常運航中であれば誰もそんなことはしませんが、急に出てきた鳥を避けるときや他機が思ったよりも近かった時など突発的な出来事に対してはどうしても急操作かつ大きな操作になってしまいます。
機体の追従性の悪いシーソータイプでは急激な操作でマストとハブのマージンは小さくなってしまいます。
これに加えてLow G状態や乱気流などの要因があるとマストバンピングを引き起こしてしまう可能性があります。
Low G状態になるような操作
Low Gを作り出してしまう操作としては以下のようなものがあります。
- 高速飛行からの急降下
- 急上昇からの急なレベルオフまたは急降下
- コレクティブピッピレバーを大きく下げることによる降下
操縦していて自分の体がふわっと浮くような操作をしてはいけません。
訓練初期などによくやってしまいがちなのは、離陸して上昇中にレベルオフ操作が遅れて急激にサイクリックを前に倒してしまうことです。
この操作はLow Gを誘発する危険な操作であることを認識する必要があります。
重々量や機外吊り下げ
重々量で機内の積載物が偏っている時などは、最大離陸重量の範囲であっても重心位置が許容から外れる場合があります。
重心位置が外れてしまうと通常の飛行中においてもローターを大きくどちらかに傾ける必要があるためマストとハブのマージンが小さくなります。
Low RPM
ローター回転数が通常よりも低いLow RPM状態ではブレードの相対速度は遅いことになります。
相対速度が遅いと前進飛行中の前進翼と後退翼の揚力差を打ち消すフラッピングは大きくなります。
現代のほとんどの機体ではローター回転数を一定に保つガバナーが装備されているので普段意識することは少ないかもしれません。
しかしガバナー故障時やオートローテーションの際は自分でローター回転数をコントロールしなければなりません。
低すぎる回転数はマストバンピングの原因になることを意識しておきましょう。
マストバンピングの回復方法
マストバンピングになってからではどうしようもできないので、マストバンピングなりそうな時に回復操作を行う必要があります。
メインローターが反時計回りのヘリコプターがLow Gに陥ったときの回復操作は以下の通りです。
- サイクリックを後方に操作しプラスのGを獲得する。
- その後右ロールを修正する
ポイントはテールローターによる右ロールに逆らわないこと、そして急激な操作をしないことです。
まずはサイクリックを後方に操作し機体の荷重がローターにかかっている状態にします。そうなって初めて機体が操作に追従してきます。
それから右ロールを修正するための左サイクリックを使いましょう。
マストバンピングにならないために
最後にマストバンピングにならないために注意すべきことをまとめます。
- Low G状態を作らない
- 急激な操作をはしない
- 重量や重心位置の許容範囲を逸脱しない
- ローター回転数を通常範囲に保ちLow RPMにしない
マストバンピングの根本的な原因は過度なフラッピングです。
その状態を作らないよな操作を意識しましょう。
参考
英語ではありますがアメリカ陸軍の説明動画が非常に分かりやすいです。
Helicopter Flying Handbook:Chapter 11: Helicopter Emergencies and Hazards