皆さんは「誘導速度」「ダウンウォッシュ」「誘導流」の違いを正しく理解していますか?
改めて言われてみると、分かるようで分からないような感じがしますよね?もちろんそうじゃない方もいるとと思いますが。
今回はそんな「誘導速度」「ダウンウォッシュ」「誘導流」の違いを解説していきます。
誘導速度(Induced Velocity)
■メインローターを通過して吹き下ろす空気の速度
上の図を見ながら解説していきます。
図はホバリング時のメインローターから発生する空気の流れを表しています。
一番上のオレンジの円盤がメインローターです。
ヘリコプターはホバリング中、大量の空気をローター上面から取り入れて下に吹き出しています。
この時のメインローター周りの下向きの空気の速度を「誘導速度」と呼んでいます。
メインローターから発生した下向きの空気の流れは、ベンチュリー効果によって加速され、後ほど出てくる「ダウンウォッシュ」になります。
この「誘導速度」と言う言葉は、ローター周りの空気の流れを説明する際に使われているイメージがあります。
ダウンウォッシュ(Downwash)
■メインローターを通過しベンチュリー効果によって加速された空気
「ダウンウォッシュ」と聞くと、ヘリコプターから吹き下ろしてくる風のことをイメージすると思います。
厳密に言うとメインローターを通過した空気がベンチュリー効果によって加速したものが「ダウンウォッシュ」です。
上の図の「2Vi」と言うのがダウンウォッシュの速度を表しています。Viが誘導速度なのでダウンウォッシュ速度は誘導速度の2倍と言うことですね。
ダウンウォッシュ速度はメインローター直径の3倍の距離まで、減速することなく届くと言われています。
誘導流(Induced Flow)
■メインローターを通過した下向きの空気の流れ
「誘導流」はメインローターを通過した下向きの空気の流れ全体を意味しています。
ダウンウォッシュも誘導流ですし、誘導速度も誘導流の速度と言えます。
誘導速度とダウンウォッシュの求め方
誘導速度・ダウンウォッシュ速度は計算で求めることができます。
自分が乗っている機体に当てはめてみてくださいね。
$$誘導速度Vi=\sqrt\frac{W}{2ρπR^2} [m/s]$$
$$Vi=\sqrt\frac{W}{0.785R^2} [m/s](標準大気状態)$$
$$ダウンウォッシュ速度=2Vi [m/s]$$
W:機体重量[kg]
ρ:空気密度[kg・s2/m4]
R:メインローター半径[m]
AS350Bの場合
参考にAS350Bの誘導速度とダウンウォッシュを以下の条件で計算してみましょう。
- 機体重量 W=1950kg
- メインローター半径 R=5.345m
- 標準大気状態
$$誘導速度Vi=\sqrt\frac{1950}{0.785\times5.34 5^2} [m/s](標準大気状態、海面上)$$
$$Vi=9.32469・・・\approx9[m/s]$$
$$ダウンウォッシュ速度=2\times9.32469[m/s]$$
$$ダウンウォッシュ速度=18.64938\approx19[m/s]$$
誘導速度Vi=9 m/s(17kt)
ダウンウォッシュ速度=19 m/s(37kt)
このように計算できます。
世界最大のヘリコプター Mi-26の場合
ついでに量産されている世界最大のヘリコプターであるMi-26も興味があるので計算してみました。
- 機体重量 W:56000kg
- メインローター半径 R:16m
- 標準大気状態
$$誘導速度Vi=\sqrt\frac{56000}{0.785\times1 6^2} [m/s](標準大気状態、海面上)$$
$$Vi=16.69318・・・\approx17[m/s]$$
$$ダウンウォッシュ速度=2\times16.69318[m/s]$$
$$ダウンウォッシュ速度=33.38636\approx33[m/s]$$
誘導速度 Vi=17 m/s(33kt)
ダウンウォッシュ速度=33 m/s(64kt)
という結果になりました。
AS350Bの1.7倍ぐらいありますね。恐ろしいです。
風速の参考に気象庁の風の強さと吹き方の表を貼っておきます。
Mi-26のダウンウォッシュ速度33m/sは極めて危険な風ですね。
見つけても絶対に近づいてはいけませんよ。
参考
AIRBUS SAFETY PROMOTION NOTICE「Noise & downwash considerations for ground operators」