ヘリコプターの危険な空力シリーズ第4弾は「ダイナミック。ロールオーバー」です。
ダイナミックにひっくり返るなんてなんか危なそうですよね。
- ダイナミック・ロールオーバーとは何なのか
- ダイナミック・ロールオーバーはなぜ起きるのか
- ダイナミック・ロールオーバーになりやすい状況
- ダイナミック・ロールオーバーの回復方法
- ダイナミック・ロールオーバーにならないために
を解説していきます。
この記事を読んでダイナミック・ロールオーバーの知識をつけていつでも対処できるようにしておきましょう。
ダイナミック・ロールオーバーとは?
ダイナミック・ロールオーバー:Dynamic Rollover
降着装置が地面に固着し、そこを支点としてメインローターの推力によって機体が横転すること。
ダイナミック・ロールオーバーはメインローターの推力によって機体が横転してしまうことです。
機体の傾きだけで倒れるのではなく、メインローターの推力によって横転するので加速度的な動きになります。
機体の傾きのみによる横転を「スタティック・ロールオーバー」と言います。
ダイナミック・ロールオーバーはなぜ起きるのか?
ヘリコプターが横転に至る角度を「臨界ロールオーバー角」と言います。
ヘリコプターを倒して横転する(スタティック・ロールオーバー)の角度は機種にもよりますが通常30°以上と言われています。
30°だと結構傾けないといけないですよね。
スタティック・ロールオーバーは重心位置が回転軸を超えない限り横転しません。
これに対しダイナミック・ロールオーバーはどうでしょうか?
FAAのHelicopter Flying Handbookによると機種や風、重量にもよりますがダイナミック・ロールオーバーの臨界ロールオーバー角は5〜8°だそうです。
スタティック・ロールオーバーに比べるとかなり少ない角度で横転してしまうことになります。
機体が傾いた状態ではメインローターの推力も傾きます。
この傾いた推力が機体を横方向に回転させるように働き、少ない傾斜でも完全に横転してしまいます。
臨界ロールオーバー角を超えてしまうと、サイクリックを横方向いっぱいに当てても横転を止めることはできないのです。
ヘリコプターには通常、ダイナミック・ロールオーバーをしないために離着陸時の傾斜の制限があります。
例えばAS350であれば横方向8°です。
8°以上の傾斜地はダイナミック・ロールオーバーの危険があるため離着陸できません。
このようにダイナミック・ロールオーバーは機体の傾きとメインローターの推力が合わさって機体を横転させてしまいます。
ダイナミック・ロールオーバーになりやすい状況
ダイナミック・ロールオーバーになりやすい状況を考えてみましょう。
ここではメインローターが反時計方向に回転する機体で考えます。
左右の横転で何か違いは?
横転と言っても右に横転するのと左に横転するので何が違うか考えてみます。
メインローター が反時計回りの機体の場合、テールローターの推力は右側に向かって出ています。(風は左側)
このテールローターの推力も考えると右横転の方がより加速度的なものになります。
傾斜地での離着陸
これはメインローターの回転方向に関係ありませんが、一番は傾斜地での離着陸です。
事業操縦士の実地試験の科目でもあるので一度は経験があるかと思います。
サイクリックを適切に当てないとローター面が傾くので推力も傾き横に滑りやすくなります。
横に滑る時に降着装置に引っかかりがあった場合、すぐにダイナミック・ロールオーバーになってしまいます。
ローター面が地面に対しててはなく地平線に対して平行になるように意識する必要があります。
寒冷地でのフライト
寒冷地で怖いのは降着装置が凍って地面とくっついてしまうことです。
片方の降着装置が凍ったまま離陸しようとすると当然機体は傾きあっという間にダイナミック・ロールオーバーになってしまいます。
飛行前点検では機体の足回りもよく確認する必要があります。
左横風を受けている
メインローターが反時計回りの機体はボバリング中左に傾いた姿勢になっています。(左のスキッドが下がった状態)
これはテールローターの推力により機体が右にドリフトしないようにサイクリックを左に当てている結果です。
左からの横風を受けると風に流されないためにサイクリックをさらに左に当てる必要があり、機体はさらに左に傾いた状態でのホバリングになります。
この状態で機体を接地させようとした時、傾きが大きので臨界ロールオーバー角に近くダイナミック・ロールオーバーなりやすいです。
メインローターが時計回りの機体であれば右横風が不利な状況と言えます。
ダイナミック・ロールオーバーの回復方法
ダイナミック・ロールオーバーの回復方法はただ一つです。
それはコレクティブピッチレバーを直ちに下げることです。
メインローターの推力が少なくなるか無くなれば機体の横転運動は止まります。
やってしまいがちなのはサイクリックスティックで横転を止めようとしてしまうことです。
横向きの動きなので反射的にサイクリックを操作してしまいそうですが全く意味がありません。
またサイクリックを横に倒しすぎることでブレードのハブがマストに当たる「マストバンピング」が発生する恐れもあります。
やばいと思ったらすぐにコレクティブを下げましょう。
ダイナミック・ロールオーバーにならないために
最後にダイナミック・ロールオーバーにならないために意識することをまとめておきます。
- 離着陸操作はゆっくりと
- ホバリングやタクシー中は十分な高度をとる
- 降着装置に障害物や氷がついていないか確認する
- 傾斜地では風向きを不利な状況にしない
- 限界を超えた傾斜地には降りない
①離着陸操作はゆっくりと
基本的なことではありますが、ホバアップや接地の操作は慎重に行いましょう。
急激なコレクティブの操作はダイナミック・ロールオーバーを引き起こします。
離着陸操作はコレクティブを2段階に分けて使いといいです。
離陸の操作で言えば1段階目は機体が浮き上がろうとするまでコレクティブを使いライトオンスキッドを感じます。期待の平衡感覚を掴み優しく2段階目のコレクティブを使いましょう。
②ホバリングやタクシー中は十分な高度をとる
「タクシー中の高度保持が甘い!」と訓練初期にはよく言われました。
ホバリングやタクシー中の高度は電波高度計がない限り、見た目や感覚での判断になるため保持が甘くなりがちです。
タクシー中に機体が背風側に向いた時、パワーを入れないと機体は落とされてしまいます。
普段から意識していないとふとした瞬間に落とされてしまい、最悪の場合地面に接触。さらに最悪の場合ダイナミック・ロールオーバーで機体を壊してしまうかもしれません。
高度が高すぎるのもよくはありませんがホバリング中の対地感覚は大切にしましょう。
③降着装置に障害物や氷がついていないか確認する
これは機長の義務の一つである航空機の出発前の確認です。
普段から降着装置に目を向けて引っかかりそうなものはないか、氷はついていないかをしっかり確認しましょう。
普段空港などでの運航が多いと環境が良くない場外離着陸場などに行った際に見落としがちになります。
④傾斜地では風向きを不利な状況にしない
メインローターが反時計回りであれば左横風、時計回りでは右横風を受けるとホバリング姿勢の傾きが大きくなります。
特に傾斜地での離着陸ではこの傾きが命鳥になることもあります。
できれば風を有利な向きにする。それができないのであれば他の着陸場所を探すべきです。
⑤限界を超えた傾斜地には降りない
各機体の飛行規程には傾斜地の限界事項があります。
これはダイナミック・ロールオーバーにならないためにメーカーが定めたものです。
もちろんこの傾斜の限界を超えていなくてもダイナミック・ロールオーバーになる可能性はあります。
操縦士としてできることはこの限界事項を理解し遵守することです。