気象の分野ではよく出てくる「逆転層」という言葉。
なんとなく意味はわかるけど、具体的に説明しようとすると意外と詰まってしまうかもしれません。
逆転層は航空気象の分野においても様々な天気現象を理解するために必要なものの一つと言えます。
今回はそんな逆転層について解説していきます。
逆転層とは?
気象庁の用語の解説では逆転層について以下のように解説されています。
気温が上方に向かって等温または高くなっている気層。前線に伴うもの、放射冷却などによるものがある。
気象庁
少しわかりにくいので説明すると。
通常、対流圏における大気の性質は高度が上がるほど気温は低くなります。
例えば真夏でも山の頂上など標高の高い場所に行くと涼しく感じますよね。
これが本来の大気の性質ですが、その性質とは逆に高度の上昇に伴って気温が上がることがあり、その層のことを「逆転層」と呼びます。
気温が高い空気は密度が低く周りの空気に比べて軽いため上昇していき、これが対流を生み出します。
しかし逆転層がある場合、下の空気が冷たくて密度が高く、上の空気が温かくて密度が低いため対流は起こりません。
逆転層ができる原因
逆転層ができる原因は一つではなく様々です。
発生原因の違いによって「接地逆転層」「沈降性逆転層」「前線(移流)性逆転層」の大きく3種類に分けることができます。
それぞれの逆転層の成り立ちを見ていきましょう。
①接地逆転層(Ground Inversion)
地面付近の空気が放射冷却によって冷やされてできる逆転層を「接地逆転層」と言います。
よく晴れた風の弱い夜は放射冷却によって、地面から宇宙に向かってどんどん熱が放出されていきます。
これにより地面近くの空気が急激に冷やされて上方の空気よりも冷たくなるとそこに逆転層ができます。
接地逆転層は地上から数百メートルの高さしかなく厚さはそれほどありません。
②沈降性逆転層(Subsidence Inversion)
下降気流による断熱圧縮によって気温が上昇してできる逆転層を「沈降性逆転層」と言います。
下降気流が発生しているということは、空気が上から下に向かって動いているということです。
対流圏の大気の性質として、空気は上昇するほど冷やされ、下降するほど温められます。
下降気流による断熱圧縮によって気温は10℃/kmで昇温していき、この昇温の過程で下の空気よりも温かい逆転層が形成されます。
沈降性逆転層は地上から1000m以上の高さでできることが多く、逆転層より上の空気は乾燥しています。
③前線性逆転層(Frontal Inversion)
前線付近などの異なる空気同士の境目でできるのもで、温かい空気が冷たい空気の上に流れることで形成される逆転層を「前線性逆転層」と言います。(移流性逆転層ともいう)
前線性逆転層は地上から1000m以上の高さでできることが多く、逆転層より上の空気は湿潤です。
逆転層の影響
逆転層が形成されることによって、どのような影響が出るのでしょうか?
逆転層は大気が安定しているので、一見良いようにも思えますが実際はそうでもありません。
どのような影響があるのかを見ていきましょう。
低視程
逆転層が形成されると視程は低下します。
逆転層の下の冷たい空気は上方にある温かい空気によって蓋をされるので対流は起こりません。
その結果、排気ガスや煙などから出る塵や埃など粒子が地上近くにとどまり、スモッグになり視程が低下します。
逆転層よりも高い高度まで上昇すれば影響はなくなりますが、比較的低高度を飛行するヘリコプターにとっては大きな影響があります。
逆転層の形成は大気汚染とも関わりが大きいようです。
霧の発生
逆転層が形成されると、放射霧の一種である「逆転霧」が発生することがあります。
逆転層の底部にできた層雲が放射冷却によって冷やされて下方へ発達し、地面に到達することで霧ができます。
一般的に雲は上に向かって発達していきますが、逆転層がある場合には下の空気がより冷たいため、下に向かって発達することもあります。
山岳波が遠方まで伝わる
山脈に風があたると空気は強制的に上昇し断熱膨張によって温度が下がります。
山頂付近を越える頃には、上昇した空気は冷えて重くなり下降し始めます。
空気が下降すると断熱圧縮によって温度が上がり空気は軽くなるので再び上昇し始めます。
このように空気が波打つことにより山岳波は風下側に伝搬していきます。
この時に山頂付近に逆転層があると、空気の上昇が逆転層で抑えられるため山岳波の振り幅が小さくなり、より遠くまで山岳波が伝わ流ようになります。
山岳波は山の風下側100NM以上の距離まで伝わることがあります。
ウインドシアー
逆転層は大気が安定しているため対流が発生せず、上下の空気を分離します。
地面付近の風は弱いですが逆転層のすぐ上では強い風が吹いておりウインドシアーが発生することがあります。
上昇や降下中にウインドシアーに遭遇すると、急激な対気速度(TAS)の変化が生じるためVNEの超過や失速に注意が必要です。
降水は少ない
逆転層があると雲は上へと発達していかないため、雨を降らすような雲は形成されにくくなります。
しかし、前線性逆転層では降水を伴うこともあります。