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背風でのアプローチはなぜ危険なのか

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航空機の技術がどれだけ進歩しても克服することができないものが「背風でのアプローチ」です。

背風でのアプローチに起因する航空機の事故は世界中で多く起こっており、もちろん日本も例外ではありません。

訓練生時代の頃から「背風でのアプローチは危ない」と何度も言われてきたと思いますが、その危険性を本当に正しく理解するのは簡単なことではありません。

今回は背風でのアプローチはなぜ危険なのか、危険と分かっていてもなぜ背風でアプローチしてしまうのか、そして背風でのアプローチのリスクを最小限にするためにはどうすべきかを書いていきます。

目次

なぜ背風でのアプローチは危険なのか?

背風でのアプローチが危険だと言う要因はいくつか挙げることができます。

なぜ背風でのアプローチは危険なのか

⚫︎対気速度が低下し必要馬力が増える

⚫︎対地速度が増加し降下率が過大になりやすい

⚫︎Vortex Ring State(VRS)

⚫︎Settling With Power

⚫︎Loss of Tail Rotor Effectiveness(LTE)のリスク増加

ひとつずつ見ていきましょう。

対気速度が低下し必要馬力が増える

ヘリコプターは空気に対して飛んでいるので風向風速によって、対気速度(空気に対する速度)は変化します。

地面に対してのヘリコプターの動きである対地速度を一定にしようとした時、背風の場合では対気速度を遅くする必要があります。

例えば、対地速度60ktでアプローチしたい場合、背風が10kt吹いている状態では対気速度は50ktになります。

後ろから10ktの風を受けているので、この状態で対気速度を60ktにしてしまうと10ktたされて対地速度は70ktになってしまいますよね。

速度についてはこちらの記事で詳しく解説しているので併せて読んでみてくださいね。

対気速度が遅くなるということは、アプローチ中に転移揚力を得られる時間が短くなります。

言い換えれば早い段階で転移揚力の効果が切れてしまうと言うことです。

ヘリコプターが転移揚力を獲得できるのは対気速度16〜24ktと言われています。

例えば、対地速度20ktで前に進んでいたとしても、背風が10kt吹いていれば対気速度は10ktになるので転移揚力は完全に切れてしまいます。

アプローチ末期に転移揚力が急に切れて機体が大きく沈むと最悪の場合そのまま地面に叩きつけられるかのせいもあるので危険です。

また、必要馬力が増えるということは余剰馬力(パワーの余力)が減るということでもあります。

アプローチ中に余剰馬力がないと、気流や風の変化によって機体が落とされた時や、目の前に鳥が現れるなどの急な障害物に対応できなくなってしまいます。

余剰馬力が十分にあれば対応の幅も広がります。

また余剰馬力がないと、後ほど説明するSettling With Powerにもつながります。

対地速度が増加し効果率が過大になりやすい

先ほど説明したように背風を受けていると対地速度は無風時や正対風時よりも速くなります。

対地速度速いということは、それだけ前に速く進んでいるのでパス角を維持するためには降下率を大きくしなければなりません。

下の図はパス角7°のアプローチ中で、対地速度(GS)が30ktと50ktの時の降下率(RoD)の違いを表したものです。

対地速度が速くなっている認識がないままアプローチをすると、無意識のうちに降下率が過大になってしまいます。

降下率が大き過ぎすると後ほど説明するVortex Ring State(VRS)になりやすくなり、それがSettling With Powerに繋がってしまいます。

Vortex Ring State(VRS)

VRSとは、ヘリコプターの降下速度がメインローターのダウンウォッシュ速度を上回り、メインローター周辺で渦ができている状態のことです。

VRSになってしまう3つの条件を覚えていますか?

せっかくのなので確認しておきましょう。

VRSに陥る3つの条件

⚫︎エンジンのパワーを使っている

⚫︎降下率が300ft/min以上

⚫︎対気速度が0〜30kt

降下率に関しては機体や空気密度によって多少変化しますが、一つの目安として覚えておいてくだいね。

背風でのアプローチはこの3つの条件が揃いやすいです。

アプローチですのでもちろんエンジンのパワーは使っています。

先ほど説明したように、対気速度が速くなり降下率が大きくなりやすく、背風のため対気速度を獲得することが難しくなります。

このように背風でのアプローチはVRSの全ての条件が最も揃いやすいと言えます。

Settling With Power

Settling With Powerとは、VRSに入ったヘリコプターがパワーを足しているのにも関わらず、機体の沈みが止められないことです。

VRSに入ったヘリコプターはコレクティブをあげてパワーを足しても、渦をさらに大きくするだけで降下を止めることはできません。

限界までパワーを使っているのに降下を止められないのがSettling With Powerです。

これまでの説明でもわかるように背風でのアプローチはSettling With Powerに陥る可能性が非常に高くなります。

Settling With Powerになっても高度に余裕があれば余裕を持って回復操作ができますが、地面に近いアプローチ中ではそうはいきません。

Loss of Tail Rotor Effectiveness(LTE)のリスク増加

ヘリコプターは「風見効果」があります。これは風向きを教えてくれる風見鶏と同じで、風が吹いている方向に向き安定します。

ヘリコプターも正面から風を受けている時にヨー方向が最も安定します。

正面から風を受けているとヨー方向の安定だけではなく、バーティカル・スタビライザーの働きによってテールローターから発生するアンチトルクが少なくなります。

しかし、背風ではヨー方向の安定も正対風ほどではなく、テールローターがアンチトルクをより多く発生させなければなりません。

そしてLTEに陥りやすい風向きとして背風がありますよね。

ヘリコプターのアプローチは最終的にはホバリングになります。又その前の低速領域でも急にLTEに入ってしまうこともあります。

なぜ背風でのアプローチになってしまうのか?

ヘリコプターは飛行機に比べて、背風でのアプローチをする可能性は高いです。

飛行機が離着陸するのは基本的には滑走路のある飛行場です。その多くは地上に管制官がいて常時風の情報を教えてくれます。

また、飛行場の使用滑走路は基本的には正対風になるように決定されるので、管制官の指示通りにアプローチをすれば背風になることは少ないです。

しかしヘリコプターは管制官のいる飛行場ばかりで離着陸をするわけではありません。

どんな仕事をしているかにもよりますが、ヘリポートや場外離着陸場またはその辺の空き地などに着陸する場合もあります。

地上に人がいて無線で風の情報を教えてくれるヘリポートもありますが全てがそうではありません。

場外離着陸場や空き地では吹き流しすら無い場合もあり、風の情報を正確に得ることが困難になります。

また、地上の障害物の状況によっては風向きに関係なく一方向からしかアプローチできない場合もあり背風でのアプローチをしなければならない場合もあります。

このような状態で風を正しく認識しないままアプローチをしてしまうと、背風への認識が遅れ危険な状態になってしまいます。

どのように背風でのアプローチのリスクを低減するか

ここからは背風でのアプローチのリスクをどのように低減するかをみていきましょう。

風の認識

背風でのアプローチを避けるためには風の認識が最も大切です。

地上の風は地形の影響を受けやすいので予報とは違う風向きになることがよくあります。

普段飛んでいる時から現在の風はどうなのかを意識してみるようにするといいと思います。

煙が立っていたらどっちの方向にどのように流れているかで風向風速が分かります。

またヘリコプターのIASとGSを比べてみれば正対風か背風なのか、どれぐらいの強さなのかが分かります。

またその場所特有の吹きやすい風向きを知っていると非常に有効です。

背風でのアプローチを避けられるのであればそれがベストです。

アプローチ前にパワーの確認

アプローチ方向が一方向しかない場合や、風の認識が上手くいかなかった場合はいきなりアプローチを開始してはいけません。

アプローチを開始する前に、安全な場所と高度でホバリングをしてみて余剰馬力がどの程度あるのかを確認します。

この時は実際にアプローチする方向と同じ方向でやることをお勧めします。

このパワーチェックの際にホバリングができなかったり、余剰馬力が少ない場合はその場所への着陸を諦めた方がいいかもしれません。

しばらく飛んで燃料を減らすか、人員をどこかで下ろすなどして機体の重量を軽くする必要があります。

アプローチの方法

背風や風がわからない状態でアプローチする時は、早めに速度と降下率を抑えてパワーを入れておくことが大切です。

背風では気づかないうちに対地速度が速くなり、それに伴って降下率も大きくなる傾向があります。

そうなるとVRSになりsettling With Powerにつながるので危険です。

通常よりもゆっくりとしたアプローチになります。

また早めにコレクティブを使用してパワーをしっかり入れて降下をコントールできるようにしておきます。

イメージ的にはホバリングしながらゆっくりと前に進みつつ降下しているような感じです。

パワーがしっかり入っていれば、いつでも止まることができますし余剰馬力を使ってGo Around(着陸復行)することもできます。

まとめ

風の正しい認識がないまま背風でアプローチするのは危険な行為です。

Settling With PowerやLTEなど危険な状態に陥ってしまう可能性があります。

特にヘリコプターは風の情報が得られない場所で離着陸する機会が多いので、普段から風の状況を気にして飛ぶといいと思います。

背風や風がわからない時は早めに速度と降下率を抑えてパワーをしっかり当てましょう。

慎重に操作をすれば背風であってもそのリスクを最小限にすることができます。

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